配車の段取りと荷主からの問い合わせ対応に一日が追われる、ドライバーの募集をかけても応募が来ない、日報や点呼記録の整理が後回しになる ― 運送会社や物流事業者を営む方なら、思い当たる場面が多いのではないでしょうか。業種ごとに「AIで具体的に何ができて、時間とコストがどれだけ変わるのか」をお伝えしてきたこのシリーズ、第10回のテーマは「運送・物流」です。
前回の学習塾編では「先生が教えることに集中するための使い方」をご紹介しましたが、運送・物流は「事務・書類・連絡」といった付帯業務がとにかく多い業種です。いわゆる2024年問題で労働時間の制約が厳しくなったいまこそ、これらの周辺作業をAIに肩代わりさせる意味は大きくなっています。特別な知識は要りません。肩の力を抜いて読んでみてください。
運送・物流が抱える「あるある課題」
まずは、多くの運送会社・物流事業者に共通する悩みを整理してみましょう。おそらく、いくつも心当たりがあるはずです。
ひとつは配車・問い合わせ対応に追われる毎日です。「いつ着きますか」「集荷をお願いしたい」「便を変更したい」といった荷主からの連絡が次々入り、配車の段取りと電話・メール対応で手いっぱいになる。次にドライバー採用の難しさ。求人を出しても応募が来ない、求人原稿を練り直す時間もない、という声は業界共通の悩みです。
さらに日報・点呼記録・報告書の山。運行日報、点呼記録、事故・ヒヤリハットの報告など、書類仕事は増える一方で、これがドライバーにも管理者にも負担になっています。加えて荷主対応や各種お知らせ文。料金改定の案内、年末年始の運休告知、遅延のお詫びなど、ていねいな文面を毎回ゼロから書くのは骨が折れます。そして安全教育の準備。法令で定められた指導・教育の資料づくりやマニュアル整備も、つい後回しになりがちです。
これらの課題に共通するのは、「運ぶ」本業のまわりにある事務・連絡・書類の作業が、人と時間を圧迫している点です。とくに2024年問題で一人あたりの労働時間に上限がかかったいま、この周辺作業をいかに軽くするかが経営の分かれ目になっています。実は、その多くがAIで大きく軽くできます。
運送・物流会社がAIでできることは?
ここからは具体的に、運送・物流ですぐ試せるAIの使い方を5つ紹介します。いずれも、無料〜月数千円のツール(ChatGPTなど)で始められるものばかりです。
① 荷主への問い合わせ・連絡文をすぐ作成
「到着予定の連絡」「集荷依頼への返信」「便変更のご案内」など、荷主とのやりとりに使う定型の文面を、状況を伝えればすぐ作成できます。「ていねいだが簡潔に」「お詫びを添えて」などトーンを指定すれば、角の立たない文面に仕上がります。よくある問い合わせをまとめてテンプレ化しておけば、担当者によって対応がばらつくこともなくなります。
② 求人原稿・募集文を何パターンも作成
ドライバー募集は文面で応募数が変わります。職種・勤務条件・自社の魅力を箇条書きで渡すだけで、AIが応募したくなる求人原稿を数パターン作成してくれます。「未経験歓迎を前面に」「働きやすさを強調」など切り口を変えて何案も出せるので、求人媒体ごとに最適な文面を用意できます。ゼロから書くのと、たたき台を手直しするのとでは、かかる時間がまるで違います。
③ 日報・報告の文章整理を手伝わせる
ドライバーが箇条書きやメモで残した内容を渡せば、日報や報告書として読みやすい文章に整えるのもAIの得意分野です。事故・ヒヤリハットの報告も、起きたことを簡単に伝えれば、要点を押さえた報告文のたたき台を作れます。記録を残すハードルが下がれば、現場の負担が軽くなり、報告そのものも回りやすくなります。
④ 安全教育の資料・マニュアルの下書き
法令で求められる安全指導や、社内のマニュアル整備にもAIが使えます。「冬場の運転で注意すべき点を新人向けにまとめて」と頼めば、教育資料やマニュアルのたたき台を数分で用意できます。あくまで下書きとして使い、自社のルールや実情に合わせて手を入れていく ― この使い方なら、後回しになりがちな教育準備がぐっと進みます。
⑤ お知らせ文・メール下書きをまとめて量産
料金改定の案内、年末年始の運休告知、遅延のお詫び、新サービスの紹介 ― こうした各種お知らせ文やメールの下書きも、AIならすぐに何パターンも作成できます。荷主向け・取引先向け・社内向けと宛先を変えて表現を調整するのも一瞬です。「文章を書くのが苦手で連絡が後回しになる」という悩みが、大きく軽くなります。
結局、時間とコストはどれだけ減るのか
ここがいちばん気になるところでしょう。あくまで一例で、会社の規模や台数によって変わりますが、イメージをつかむための目安を挙げてみます。
たとえば荷主への連絡文づくり。1件あたり10〜15分かけていた文面作成が、AIにたたき台を作らせれば数分に短縮できます。日に何件も発生するなら、積み重ねで大きな時間削減になります。求人原稿も、1本まとめるのに1〜2時間かけていたものが、たたき台があれば30分前後で仕上がるイメージです。日報・報告の整理や安全教育資料の下書きも、ゼロから作る負担が大きく減り、後回しになっていた仕事が回り始めます。
数字そのものより大切なのは、こうして浮いた時間を、配車の最適化や荷主との関係づくり、ドライバーのケアといった「人にしかできない仕事」に振り向けられるという点です。労働時間に上限がかかるいまだからこそ、AIは「限られた時間で本業に集中するための道具」になります。
※ここで挙げた数字はあくまで一般的な目安です。実際の効果は会社や業務によって変わりますので、まずは1つの業務で試し、自社での削減幅を測ってみることをおすすめします。誇張した数字をうのみにせず、自分の現場で確かめる姿勢が大切です。
ただし、正しく使うにはコツがいる
便利な一方で、運送・物流だからこそ気をつけたい点があります。
最も大事なのは、運行・安全・法令に関わる最終判断は、必ず人間が行うということです。労働時間や休憩のルール(改善基準告示など)、運行管理、点呼、安全教育の内容は、人の命と法令に直結します。AIはあくまで資料や文面の「下書き」を手伝う道具と割り切り、ルールに沿っているか・実態に合っているかの最終確認は、必ず運行管理者や経営者が行ってください。
次にAIが事実と違う情報を「もっともらしく」作ってしまうことです。これは「ハルシネーション」と呼ばれる現象で、法令の数値や手続きをAIに書かせると、誤った内容が混じる恐れがあります。教育資料やマニュアルに使う際は、根拠となる法令・通達を必ず人間が確認してから使ってください。
もうひとつは荷主やドライバーの個人情報の扱いです。氏名・住所・連絡先や、取引先の機密にあたる情報を、そのままAIサービスに入力するのは避けましょう。文面を作らせるときは、固有名詞を伏せて「ある荷主から〜という問い合わせ」といった形に置き換えるのが安全です。
このあたりの「AIの落とし穴」と上手な付き合い方は、別途お届けしている用語解説シリーズでも詳しく扱っています。あわせて押さえておくと、より安心してAIを使えるはずです。
シリーズを終えて ― 次はどこへ
飲食店から始まったこの「業種別AI活用シリーズ」も、本日の運送・物流編で全10業種をお届けすることができました。飲食・小売・不動産・建設・士業・美容・製造・クリニック・学習塾、そして運送・物流 ― 業種は違っても、AIが効くポイントには共通点がありました。それは「文章をつくる作業」「定型のやりとり」「数が多くて時間を食う事務」を肩代わりさせ、経営者やスタッフの時間を本業に取り戻すという一点です。
今後は、反響の大きかった業種について、より具体的な事例や一歩進んだ使い方を掘り下げる「深掘り編」をお届けしていく予定です。「うちの業種をもっと詳しく」というご要望があれば、ぜひお寄せください。10回にわたりお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
まとめ
運送・物流は、荷主対応・求人原稿・日報や報告・安全教育の資料・各種お知らせ文といった「本業のまわりにある事務作業」をAIに任せやすい業種です。①〜⑤の身近なところから始めれば、2024年問題で限られた時間のなかでも、無理なく事務負担を軽くできます。
注意点は、運行・安全・法令に関わる最終判断は必ず人間が行うこと、そして個人情報を直接入力しないこと。この一線さえ守れば、AIは運送・物流経営の心強い味方になります。関西ぱどでは、こうしたAI活用を実際に手を動かしながら学べる「AI Bootcamp」を開講予定です。「自社で何から始めればいいか相談したい」という方は、ぜひお気軽にご検討ください。


